大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島家庭裁判所呉支部 昭和45年(家)223号 審判

申立人 吉田たま(仮名)

事件本人 吉田こと金占文(仮名) (外二名)

主文

事件本人らの後見人として申立人を選任する。

理由

一  申立人は主文と同旨の審判を求めた。

二  調査の結果によれば、以下の事実が認められる。すなわち、

申立人の長男である吉田忠男(本籍は申立人と同じ。)と吉田良子こと金君子(本籍韓国慶尚南道普陽郡○○○里○○○番地)とは、昭和二七年一〇月一七日結婚式を挙げ、爾来広島市において事実上の夫婦として同棲していたものであるところ、両者の間の子として、昭和二九年二月二七日事件本人占文を、昭和三〇年七月二八日事件本人順祚を、昭和三二年六月四日事件本人義子を、それぞれもうけ、その後、昭和三五年二月二六日忠男と君子とは広島県住伯郡○○○町長に対し婚姻の届出をするとともに、忠男は翌二七日町長に対し、事件本人らがいずれも自己とその妻である君子との間の嫡出子として出生した旨の出生の届出をし、忠男、君子夫婦は、引き継き広島市において、事件本人らをその手許において養育していた。ところが、その後昭和三九年二月三日ごろ君子は行先も告げずに単身家を出、今日に至るもその居所は不明であり、一方、忠男は昭和四四年三月一一日躁病、梅毒のため広島県安芸郡○○町の○○病院に入院し、現になお入院加療中である。申立人は、肩書住所において、その夫吉田正義とともに農業に従事するものであるが、昭和四四年四月事件本人らをその手許に引き取つてその養育にあたり、現に、事件本人占文は左官見習として勤務し、事件本人順祚、同義子は中学校に在学中であつて、いずれも申立人と同居している。そして、事件本人らはいずれも帰化申請をしようとしているものであり、申立人の本件申立の直接の動機も、一五歳未満である事件本人義子の帰化申請手続を行なうためである。

三  以上の事実によれば、事件本人らはいずれも韓国人であるから、これに対する後見開始の原因の有無は、法例第二三条第一項により、被後見人たる事件本人らの本国法である韓国法によつて定めるべきところ、韓国民法第九二八条によれば、「未成年者に対して親権者がないか、親権者が法律行為の代理権及び財産管理権を行使することができないとき」を後見開始の原因としている。そして、法例第三条第一項によれば、人の能力はその本国法によつて定めるべきものとされ、韓国民法第四条によれば満二〇歳をもつて成年としているから、事件本人らが未成年者であることは明らかであり、また、親権者の存否は、法例第二〇条により父の本国法によつて定めるべきところ、事件本人の父である忠男の本国法である我が国の民法第八一八条によれば、事件本人らは父である忠男と母である君子の共同親権に服するものであるが、前認定のとおり、忠男は現に精神病のため入院中であり、君子は現にその所在が不明であつて、いずれも親権を行使することは事実上不能の状態にある。このような場合は、前記韓国民法第九二八条に該当するというべきであるから、事件本人らについて後見が開始したものといわなければならない。

ところで、韓国民法第九三一条は、親権を行使する父母は遺言により後見人を指定することができる旨を定めるとともに、同法第九三二条は、前条による後見人の指定のない場合の法定後見人を定めている。しかし、同法第九三二条は、同法第九三一条を受けて、親権者が死亡し、かつ、遺言による指定後見人のない場合の規定であり、本件の如く、親権者が死亡したのではなく、単に精神病ないし所在不明のため、親権を現実に行使できないような場合には、同法第九三二条は適用はないものと解するのが相当である。

四  そうすると、事件本人らはいずれも我が国に住所を有し、かつ、その本国法によれば後見開始の原因があるが、後見の事務を行なう者がないことになり、法例第二三条第二項に該当するから、その後見は我が国の法律によるべきこととなる。

そして、前認定の事実によれば、本件の場合は、我が国の民法第八三八条第一号にいう「未成年者に対して親権を行なう者がないとき」にあたり、後見開始の原因があることが明らかであり、かつ、その後見人としては申立人をこれに選任するのが適当であると認められる。

五  以上の理由により、主文のとおり審判する。

(家事審判官 松田延雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例